連載「中学年代で育てたいもの」第2回
前回は、土日の部活がなくなったことをきっかけに、「部活かクラブか」ではなく「お子さんに合った環境はどこか」を考えることが大切だというお話をしました。今回は、その「どんな環境か」を見分けるうえで、私たちがいちばん大切にしていることをお話しします。
少し、ある試合の話から始めさせてください。
コーチが、いなくなった後半
その日は、テストや体調不良が重なって、いつもより少ない人数での試合でした。何人かの選手が、普段とは違う、慣れないポジションでプレーすることになりました。
案の定、試合は苦しい展開になりました。慣れない場所に立った選手が、つい相手についていってしまい、守備の形が後ろに重くなる。空いたスペースを使われ、それを埋めようと別の選手が動けば、また別の場所が空く。穴を埋めては、次の穴が開く。気づけば、前線の選手まで自陣に戻って守るしかなくなり、攻撃に転じる力が、まるで残っていませんでした。
ハーフタイム。私は、問題点をひとつだけ伝えました。「前線の選手が戻りすぎて、攻撃に移れなくなっている」と。
そして、ここからが、私が本当に大切にしていることです。私は、答えを言いませんでした。「だからこう動きなさい」という指示を、あえて出さなかった。代わりに、選手たちだけで話し合う時間をつくり——そして、その輪から離れました。選手たちの視界から、自分の姿を消したのです。
なぜか。私は、何を話したかという「内容」よりも、自分たちで考えて答えを出すという「過程」のほうが、ずっと大事だと思っているからです。
後半。選手たちは、自分たちで守備の形を整えていました。後ろに重くなっていたバランスが直り、今度は前から相手に奪いにいけるようになり、相手ゴールに迫る場面が、何度も生まれました。私が何も指示しなかった後半に、です。
なぜ「自分で考える力」なのか
この話を、ただの美談として聞いてほしいわけではありません。私がお伝えしたいのは、もっと現実的なことです。
サッカーの試合は、いつも予想を裏切ります。
どれだけ準備しても、相手は変えてきます。こちらがハーフタイムに修正したことを、相手は後半、システムもメンバーも変えて、まるごと無効にしてくる。実際に私は、前半の修正が後半そっくり通用しなくなり、大量失点した試合も経験しました。コーチが授けた「正解」は、相手が動いた瞬間に、過去のものになるのです。
だとしたら、子どもたちに本当に必要なのは何でしょうか。
それは、「言われた通りに動ける力」ではありません。目の前で状況が変わったときに、自分で、その場で、答えを見つけられる力です。コーチの指示を待っている選手は、指示が来なければ立ち止まる。でも、自分で考えられる選手は、状況が変わっても動き続けられる。
中学年代は、この力が大きく伸びる時期。だからこそ私たちは、コーチが手取り足取り教え込むのではなく、『選手が自分で考え、仲間と話し、答えにたどり着く』
その過程を、何より大切にしています。
「上手さ」だけでは、たどり着けないもの
誤解しないでいただきたいのですが、技術はとても大切です。ボールを思い通りに扱える力は、サッカーの土台です。それを徹底的に磨くことに力を注ぐチームもあり、それは素晴らしい育成だと思います。
そのうえで、私たちがとくに大切にしているのは、その技術を『「いつ、どう使うか」を自分で判断する力』です。同じドリブルでも、仕掛けるべき場面と、味方に預けるべき場面がある。それを瞬時に選ぶのは、技術とはまた別の力です。だから私たちの練習は、技術だけを切り出して反復するのではなく、試合に近い状況の中で、考えながら技術を使う形を大切にしています。
うまくいかない日もあります。新しい練習に出会った火曜日は、選手たちもまだ手探りで、声も少ない。けれど、水曜、金曜と週が進むにつれて、選手同士が交わす言葉が、どんどん増えていきます。「こうしたほうがいいんじゃない?」「さっきのは、こうだったよね」。自分の考えを、仲間に伝えられるようになっていく。その変化を、私はいつもそばで見ています。
見学のとき、ぜひ見てほしいこと
チームを見学されるときは、「コーチがどれだけ細かく指示しているか」だけでなく、「選手が、自分から話しているか」を、ぜひ見てみてください。
コーチの声だけが響いて、選手が黙ってそれに従っている練習。選手同士が考えを出し合い、自分たちで決めていく練習。どちらが良い悪いではなく、お子さんにどんな力をつけてほしいか。それによって、選ぶべき環境は変わってきます。
私たちが信じているのは、子どもは、大人が思う以上に、たくさんのことを感じながらプレーしているということです。言葉にはできなくても、その場の状況をちゃんと理解している。私は、その力を信じ、リスペクトしています。
コーチの仕事は、答えを与えることではなく、子どもが自分の中にある答えにたどり着けるよう、そっと環境を整えることだと思っています。
次回は、その力が「どう育つのか」を
「自分で考えて動く」と言葉で言うのは簡単ですが、では、指示を待つのが当たり前だった子が、どうやって自分で考えられるようになるのか。そこには、ちゃんと過程があります。
次回は、ある選手が試合中に見せてくれた、忘れられない一言を入り口に、その「育ち方」の中身を、もう少し具体的にお話ししたいと思います。
中学の3年間で、お子さんが「自分で考えて動ける選手」になっていく。その姿を、私たちは何より楽しみにしています。
RayoNAGOYAでは、コーチが答えを教え込むのではなく、選手が自分で考え、仲間と解決していく力を育てることを大切にしています。その雰囲気は、文章だけでは伝わりきりません。ぜひ一度、練習体験にお越しください。
