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「なんか、取れそうだった」 ——教えた形を、子どもが超えていく瞬間

連載「中学年代で育てたいもの」第7回

第3回で、ある試合のお話をしました。以前0対7で敗れた相手との再戦で、選手たちが自分たちで守り方を整え、0対0で終えた試合。あのとき私は、決定的な場面を外して悔しがった選手の話を書きました。

実は、あの試合には、もうひとつの物語があります。今回は、その話をさせてください。私がこの数ヶ月で、いちばん驚かされた場面です。

決まりごとを、破った選手

あの試合、守備にはチームの決まりごとがありました。相手が後ろからボールをつなぐとき、前から奪いに行くのは、真ん中の選手たち。そういう約束で、試合に入っていました。

ところが試合の途中、右サイドの選手が、近くの仲間と、何やら話しているのです。

様子を見ていると——次の場面から、動きが変わりました。決まりでは行かないはずのサイドの選手が、相手の後ろの選手めがけて、前から奪いに行き始めたのです。すると、それに合わせて、別の選手が相手の縦パスを次々と奪い始めた。サイドに出たボールには、また別の選手が激しく寄せる。

チームで決めた形とは、違う形。けれど、明らかに、そちらの方が機能していました。相手は、ボールを前に運べなくなっていったのです。

「なんか、取れそうだった」

ハーフタイム。私は、その選手に聞いてみました。どうして、ああしたのか。

返ってきた答えが、これです。

「相手のサイドの選手が高い位置にいたし、こっちの方が近かったし——なんか、取れそうだった」

私は、この「なんか、取れそうだった」という言葉を、忘れられません。

理路整然とした説明ではありません。戦術用語も出てきません。けれど、この子は、ピッチの上で、確かに見ていたのです。相手の立ち位置を。自分と相手との距離を。そして「ここなら奪える」という勝機を。頭で理屈を組み立てるより先に、体が状況を読んでいた。

言葉にできないけれど、確かに分かっている。——子どもには、そういう理解があります。私は、この「言葉になる前の理解」を、心からリスペクトしています。大人が「説明できないなら分かっていない」と決めつけてしまったら、この子の中に育っていた力は、見えないままだったでしょう。

教えた形を、超えていく

この場面が、私にとって特別なのには、理由があります。

コーチが決めた形を、選手が自分の判断で「超えた」からです。

指示を守れる選手は、立派です。けれど、指示を守るだけの選手は、指示が状況に合わなくなったとき、止まってしまいます。あの日のあの子は、止まりませんでした。決まりごとと、目の前の現実を見比べて、「今は、こっちの方がいい」と自分で判断し、仲間に伝え、チームの守り方を変えてしまった。

第2回で、「試合はいつも予想を裏切る。だから、自分で考える力が要る」と書きました。あの場面は、まさにその力が、目の前で形になった瞬間でした。コーチの想像を、子どもが超えていく。指導者として、これほど嬉しい瞬間はありません。

数ヶ月前には、なかった光景

そして、お伝えしたいのは——この光景は、少し前まで、なかったということです。

以前の選手たちは、もっと、指示を待っていました。うまくいかないとき、ベンチの方を見る。「どうすればいいですか」という顔をする。それが、悪いわけではありません。多くの子は、そうやってサッカーをしてきたのですから。

けれど、この数ヶ月、私たちは一貫して、選手が自分で考え、自分で決める練習を続けてきました。答えを配らず、余白を残し、選手同士が話し合う時間を大切にしてきました。その積み重ねの先に、あの「なんか、取れそうだった」が生まれたのだと、私は思っています。

数ヶ月で、子どもはここまで変わります。だとしたら、中学の3年間で、どこまで変われるでしょうか。——私が中学年代という時期に懸けているのは、その可能性です。

最終回に向けて

この連載も、次回で最終回です。

第1回から、中学年代で育てたいもの——自分で考える力、自分で背負う力、そしてその先で伸びていく姿——を、お話ししてきました。最終回は、これまでの話をまとめながら、いま、チーム選びの真っ只中にいるご家庭へ、私からの最後のメッセージをお届けしたいと思います。

RayoNAGOYAの練習体験は、9月も受け付けています。「なんか取れそうだった」が生まれる練習を、一度、見に来てください。見学だけでも歓迎です。

▶ 体験のお申し込みはこちら(リンク)

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